地球最後の日





 私はその場に倒れ込んだ。まさに、力尽きたと言ってもいい。
 もしも誰かが私に駆け寄り、無事を尋ねたとしても答えられないだろう。口腔内は乾き、もう一言も発したくなかったから。

 疲れた。

 その思いが頭をよぎると、それはごく自然に諦めに変った。何もかもやめてしまおう。痩せきった腕で身体を支え起き上がるのも、皮膚の分厚くなった踵で立ち上がるのも、何処にいるか分からない誰かに助けを求めて声を上げるのも。
 決めてしまえば、考える事は何もなかった。ただ、身体だけは生命に執着していた。これ以上水分を奪われないように口を決して開かない。土埃がまとわりつく瞼も閉じたまま。きっとこれは夢だ……悪夢を見ている、ほんの一瞬なのだ。目が覚めれば眠りに就いて数時間しか経っていないはずなのだ。
 ……そんなわけはないのに、私の脳は命を諦めたはずの私に希望を持たせようとする。

 もうこの絶望の日々を終わらせたい私。
 それでも救済を信じて生命を保持しようとする私。
 こんな荒野の中でその願いが果たされることは、例えば物資を潤沢に携えた誰かがやってきて私を助けてくれる可能性は皮肉にも、かつて人類が宇宙に探し求めた、地球の外にいる知的生命体にめぐり合うことにとても似ている。
 宇宙的な時間では夢のような一瞬、高度な文明を持つ期間が奇跡的に重なり合った異なる星の生き物たちが、拡大し続ける広い宇宙の中で偶然に互いを認識するその時が、いつか訪れるなんてどうして思っていたんだろう。
 吹きつける風が砂を運んで私の顔を撫でていく。倒れてそのまま永遠の眠りに就くことを選択した私は、心の片隅で笑いをこらえきれなかった。擦りむいたのであろう頬が痛い。痛みは警告である。危険に晒されていることを自らに知らせる信号である。死にゆくならそんなことはどうでもいい。それよりもこの期に及んで、宇宙について考えている自分が可笑しかった。

 死に直面して研ぎ澄まされた聴覚が、遥かな遠雷を捉えた。
 どれくらいの時間そうしていたか判らないが、段々と近づいてくるようだ。
 そうか。
 私は妙に納得して、うっすらと目を開けた。少し砂が入ったが、目を擦るほどの痛みはない。
 人類が他の知的生命体に出会うよりも――。
 視界が暗くなって、風の温度が明らかに下がった。気のせいと思えるほどの小さすぎる水の粒がむき出しの肩に当たった。
 ――小惑星にでも当たって人類が破滅する確率の方がずっと高いに決まっている。
 宇宙は、そうした事象の集合体で出来ている。





(以下、続きはない)








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